「虫」と「蟲」
現在、僕は「デイリーポータルZ(http://portal.nifty.com/)」というサイトで
生き物に関する記事を書かせていただいているのだが、
読者の方や編集部の方からよく「虫の記事ばかり書いてますね」と言われる。
僕としては昆虫に限らず、色々な動物について特にわけ隔てなく(もちろん多少の偏りはあるが)
書いているつもりだったので、その度に「そうかな?」と意外に感じていた。
そこで先日今までに自分がそのサイトで書いてきた記事を見直し、
各々の記事中でフィーチャーした生き物を分類したところ
魚類:6記事
昆虫:5記事
爬虫類:3記事
陸貝(カタツムリ):2記事
クモ、サソリ:2記事
両生類:1記事
哺乳類:1記事
という内訳であった。
なんだ、魚の方が多いし、昆虫の記事なんて多い方ではあるけれど全体の4分の1にすぎないじゃないか。
と思ったのだが、あることに気付いた。
…クモとかサソリとかカタツムリも一般的には「虫」扱いされる生き物なのでは…?
僕の頭の中では「虫」といえば「昆虫」を指す語だという勝手な考えが定着してしまっていたのだ。
陸生の軟体動物や節足動物など、諸々の小動物を「虫」と称するのはごく普通ののことであり、その考えに従うと確かに僕が書いた記事のおよそ半分は「虫」を題材にしたものであるといえる。
ところで、そもそも「虫」という字はヘビを表す象形文字で、僕らが普通イメージするような昆虫などの虫を表すものではなかったそうだ。
現在用いられる「虫」という語に近いニュアンスをもっていたのはむしろ「蟲」の方であったらしい。
僕は「蟲」をただの「虫」の旧字体だと思い込んでいたのだが、実は元々は「虫」を組み合わせて作られた全く別の字で、有する歴史はこちらの方が浅いそうだ。
(ただし、現在国内で使用されている「虫」の字はあくまで「蟲」の旧字体扱いである模様。)
で、この「蟲」だが、やはり以前はかなり広い分類群の生物の総称として用いられてきたようだ。
それが現在「虫」が雑多な小動物を指す以上に幅広い。広いどころか動物全般を表す語として使用されていたという。
つまり我々人間も「蟲」に含まれていたのである。
16世紀後期に明で著された権威ある博物学書「本草綱目」によると、すべての動物は
獣のように体を毛に覆われた「毛蟲」、
魚や爬虫類など鱗をまとった「鱗蟲」、
羽をもつ「羽蟲」、
カメやら貝やら、殻や甲羅を持つ「甲蟲」、
人間に代表される丸裸の「裸蟲」
に分類されるという。
しかも驚いたことにこれらの「蟲」にはいわゆる架空の生物も含まれている。
例えば鱗蟲の長には龍(青龍)が、羽蟲の長には鳳凰(朱雀)が君臨している。
(ちなみに毛蟲の長は白虎、甲蟲のは玄武、裸蟲はなんと人間)
当時はこれらの生物も実在のものとして扱われていたのかもしれないが…。
うん。長くなったが何が言いたいのかというと、
「虫」みたいに大雑把に分類できる言葉がないとやってらんないぐらい生き物って言うのはものすごく多様で、そこがまた素敵だねっていうお話でした。
ちなみに「虫」みたいに便利な「ざっくり分類用語」っていうのは意外とたくさんあります。「プランクトン」や「ベントス(底生生物)」とか「微生物」とか。
その辺についてはまた後日書こうかなと思います。