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2013年5月28日 (火)

カショーロ・ファッコン Rhaphiodon vulpinus

南米にはペーシュ・カショーロ(ポルトガル語でペーシュは魚、カショーロは犬を指すので「犬の魚」という意)
という魚がいます。

その名の通り下顎には肉食獣を思わせる立派な牙が生えていて、
非常に見栄えが良いので日本でもアクアリウム雑誌や釣り雑誌、
時にはテレビでも頻繁に紹介されます。

観賞魚店で幼魚が販売されていることも…。

格好いい魚なので東西の魚好きにとっての憧れの存在です。
僕もその例に漏れず小さな頃から大ファンです。

で、数年前ブラジルのパンタナールへ行った時のこと。
暇さえあれば川で釣りをしていたのですが、やたら釣れまくったのがこの魚。

1
カショーロ・ファッコン

地元の人たちはみんなペーシュ・カショーロと呼んでいましたが…。

日本で一般的にペーシュ・カショーロと呼ばれるのは、もっと体高があるHydrolycus属を指すことが多いのですが、
この種類はそれとはちょっと違う
Rhaphiodon属の魚。

現地ではその辺の魚は全部ひっくるめてペーシュ・カショーロ呼びなんですが、
細かく区別する必要がある場合のみ「カショーロ・○○」と具体的な呼称を用います。

ファッコンは山刀のような大ぶりのナイフのことなので、
カショーロ・ファッコンは「ナイフみたいなペーシュ・カショーロの一種」という意味合いになります。

確かに間近で見ると細長くて薄っぺらな銀色の魚体は刃物を想起させます。
体表がデリケートな点や歯が鋭い点も含めてタチウオに通じる雰囲気があります。

2

他のカショーロたちと同じく、牙は大きくシャープ。
釣る場合は釣り鈎やルアーの手前にワイヤーを仕込まなければいけません。
釣り糸だと簡単に切断されてしまうので…。
(というかパンタナールやアマゾンにはカショーロやピラニアなど歯が鋭い魚が異様に多いため、ワイヤーの使用は基本。)

4

カショーロ・ファッコンは群れで川を回遊しているので、釣れないときはまったく釣れません。
しかし一度群れが回ってくると文字通り入れ食いに。
新品のルアーがあっという間に上の写真のような姿にされます。

たくさん釣れるし見てくれが良いので遊んでもらうのは楽しいのですが、
ヒョロヒョロ、ペナペナの体型ゆえかあまりパワーが無いので、魚のファイトを楽しみたい人には退屈かも。


でも何十匹と釣っていると、この魚特有の珍現象が起こります。

3_2

この写真、どういうことか分かりますかね?

そう、釣り鈎が口に刺さってないんです。
ルアーのフックが牙に絡まって上がってきたんです。
奇跡的。

もう一枚、こんなことも。
5

これはどうなっているかと言うと…

6

ルアーの金具に牙がガッチリはまり込んで抜けなくなってしまっているんですね(笑)。
寄せてくるまでによく牙が折れなかったものだと感心しました。

こんなことが2回も起こるなんて…
これを応用すれば釣り鈎なしでこの魚を釣る方法が確立できそうですね。
ルアーに金具を取り付けまくるとか、金属素材のメッシュで包むとか…。

そういえばこの魚、たくさんいるんですが食用にするという話は聞きませんでした。
漁師さん曰くおいしくないそうで、釣れてもすべて逃がしていました。

見た目から判断するにひどく不味いってこともなさそうですが、小骨は多そう。
まあナマズやピラニア、コロソマなど文句なしにおいしい魚がうじゃうじゃいる川なので
ちょっとでもマイナス要素のある魚は無理に食べる必要もないのでしょうね。

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ドラード・カショーロという呼称について

ところでこのカショーロ・ファッコン。
日本の観賞魚業界ではドラード・カショーロと称されることがあります。
ドラードとは「金色」という意味なので銀一色のこの魚に付ける名前としては違和感があります。

前々から疑問に思っていたのですが、実際に生息地を訪れてみてボンヤリと背景が見えてきた気がします。

地元の人は皆この魚を「ペーシュ・カショーロ」「カショーロ・ファッコン」あるいは単に「カショーロ」と呼び、
誰一人として「ドラード・カショーロ」などとは呼んでいませんでした。

ところがある時、僕が現地で捕まえた魚の写真を地元の人に見せていると突然
「これはドラード・カショーロという魚だよ」
と驚きの一言が。

思わぬところで、ついにドラード・カショーロの正体が明らかに!
それがこちら!

Photo

……。
パイクカラシンのことだったのか…。

P1000349
真のドラード・カショーロの顔。

なるほど。こいつも確かに「カショーロ」を名乗れるだけの立派な牙をもっています。
体色も金色がかっているし、ばっちりと名が体を表している。

これなら納得いきますね。

僕が思うに、この2種は生息地と「カショーロ」の名がもろにかぶっているため、
日本の観賞魚シーンに広く知れ渡るまでにどこかで伝達ミスが生じてしまい、
現在のような混乱を生みだしてしまったのではないでしょうか。

ゴキカブリがゴキブリに~とか、yezoをyedoと間違えてトウキョウトガリネズミに~とか、
そんな間違えははいつでもどこでも頻繁に起こるもの。
ましてそれが日本~ブラジル間の地球を半周する伝言ゲームならある程度は仕方がないとも思います。

今後はネットの発達でそういうミスは起きにくくなり、過去の間違いが少しずつ正されていくのでしょうか?
そうなるといいですね。

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コメント

ペーシュカショーロも、パイクカラシンも、熱帯魚図鑑を見ていつかは飼いたいなあと思っていた
魚さん達です。

久々にこの名前を見て、なんだか嬉しくなりました!!
トーピードパイクカラシンとか、憧れでしたね。

ちなみに文末の、トウキョウトガリネズミですが、蝦夷と江戸を混同してこんな名前になったのでは
なかったでしたっけ???

アラパイマさん

なぜ人は肉食魚に憧れるのでしょうね。
特にこういう牙の生えた連中に。

そうですそうです!蝦夷と江戸。外国人にとっては紛らわしいことこの上ないでしょうね。
また、どちらもすでに消えてしまった地名でもあるのが面白いですね。

なお、「命名規約に縛られてないで、和名くらい素直に『エゾ』トガリネズミにしとけや!」と思ってたんですが、
先程調べてみたところエゾトガリネズミという種もちゃんと既にいるんですね。
それを受けて文末をちょこっと訂正しました。

気づかせてくれてありがとうございました。

はじめまして
いつもブログもデイリーポータルも楽しく拝見させていただいています。

平坂さんの知識と経験の豊富さには本当に驚かされます。まだお若いのに。
僕はアクアリウム製作や水族館めぐりが趣味で、魚やエビなど水の生き物に関しては多少の薀蓄があるつもりだったのですが、平坂さんの記事を読んでいると今まで知らなかった情報がどんどん出てきて楽しいです。

同時に、僕の得意分野であるアクア方面ですら、山から海まで手広く相手をしている平坂さんに勝てないのだと思うと悔しいというか自信をなくす思いですw
この記事のドラードカショーロの名前についての現地レポと考察を読んで、なんというか「やはり圧倒的だなあ」と感じました。

僕のように平坂さんからの知識の供給を楽しみにしているアクアリストは多いと思います。
今後もがんばってください!

ふぁぁ…何だか複雑ですね。
最初の写真の銀色の魚が「カショーロ・ファッコン」で、地元では「ペーシュ・カショーロ」とか呼ばれてて、でも日本では「ドラード・カショーロ」って言われることもあって。
でもでも地元の人達が指す「ドラード・カショーロ」って魚は、実は日本で「パイクカラシン」で通ってる魚のこと…で合ってますか?

魚って同じ種類なのに成長具合によって呼び方が変わったり、同じ種類なのに地方によって全く違う名前で認識されてたりして面白いですよね。
そして伝言ゲームによって生まれるネーミング間違い、これも面白いと思いました。

確かにネットの発達で伝達ミスが減って、正しい情報が世界中に渡っていくのは大事なことだと思うけど、
「何でこんな名前なの?」って、いきものの名前の由来やルーツを考察するのも楽しいかもって思っちゃいました。

>アクアリスト1号さん

いやいや!そんなたいしたもんじゃないんです、本当に!
生き物がらみなら何でもかんでも手を出しているので、ぱっと見知識があるように見えるかもしれませんが、ひたすら広く浅くです(笑)。

僕も観賞魚や水草に凝っていた時期があったので、アクアリストと呼ばれる方の琴線に触れる情報は今後も少しずつですが提供していけるかと思います。
今後ともよろしくお願いいたします!

>ゆりさん

合ってます!ややこしいですがそんな感じです!

冷静に考えると身の回りの生き物の名前も、よく考えると語源がピンとこないものが多いですよね。
適当な生き物の名前について「○○ 語源」と検索するとけっこういい暇つぶしになりますよ。

「無理がありすぎるだろ…」っていう解説が多くて楽しいです(笑)

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